研究概要 |
研究最終年度にあたる本年度は,海のツーリズムと漁村・漁業との具体的な関わりについて,海域管理,漁村振興,体験学習というキーワードをもとに実態調査を行なうとともに,今後の研究のための論点を整理した。 (1)事例調査と成果 事例調査は,沖縄県,愛知県,神奈川県等のマリーンレジャー活動が活発な地域,リゾート・ホテルが進出している地域,体験学習など漁村住民が積極的にツーリズム活動に関わっていこうとしている地域を選定して実施した。タイのトラッド県でも同様な聞き取り調査を実施した。 海域管理をめぐっては,(1)従来からある制度にもとづいて漁民が中心的な役割を果たす,(2)漁業が衰退し,漁協が形骸化しつつある地域では自治体の役割が増している,(3)漁民と住民が新しい関係を築きつつある,など地域の生産条件やツーリズムの進展状況に応じて多様な展開があることがわかった。リゾート活動や漁業生産が複雑に入りくむ沖縄県恩納村では,漁民,住民,リゾート・ホテル,自治体が一体となってツーリズムと水産資源の利用に関する共存・共生をめざす動きが印象的であった。 漁村社会のツーリズムへの対応は,漁業生産や地域振興策のあり方と密接に絡み合っている。海域管理を担う組織のあり方,その構成員の性格によって,地域資源の利用と調整をめぐる効果には大きな差が生まれている。 (2)今後の研究の論点 沿岸域資源の利用調整を円滑に進め,漁村の発展に結びつけるには,地域内的な問題と対外的問題の双方に対応できる機構や枠組みを設けること,漁民だけではなく地域社会の構成員を調整と管理へいかに参加させるか,行政がいかなる役割を果たすか,検討する必要がある。「漁村に広がる地域資源の管理」という幅広い視点,つまり包括的漁村開発への視点から漁業とツーリズムの共生・共存関係を捉えなおす作業が求められている。
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