研究概要 |
初年度では遺伝性横隔膜筋症の保因牛の検索と侵淫情況を調査した.さらに,本疾患の原因蛋白の探索のために、発症牛と対照牛の横隔膜筋に対する抗体をそれぞれ作製し,異常蛋白の検出を行った.今年度は作製した抗体を用いて蛋白の精製を行った.また,同じホルスタイン牛に発生している遺伝性心筋症について病理学的・遺伝学的背景について検索した. 保因牛の検索のためにホルスタイン牛213頭を検索した.このうち49頭に本疾患に特徴的なコア様構造が観察された.49頭はいずれも本疾患の家系に含まれ,保因牛の特徴であるコア様構造は病理学的に横隔膜筋症でみられるそれに一致したことから,横隔膜や心筋にコア様構造を有する症例は横隔膜筋症の保因牛であることが示唆され,広く北海道十勝に侵淫していることが明らかとなった. 横隔膜筋症の原因蛋白の探索の目的で,発症牛と対照牛の横隔膜筋組織全量に対する抗体をそれぞれ作製・検索を行った.発症牛筋組織に対する抗体での免疫ブロット法では,横隔膜筋症例で約55kD,65kDに特異的に蛋白の増量がみられた.対照牛筋組織に対する抗体では横隔膜筋症例で約85kDに蛋白の欠損がみられた.これら蛋白を免疫沈降法および二次元電気泳動法により回収し,アミノ酸配列解析をエドマン分解法により行った.現在までのところこの解析は完了しておらず,蛋白の同定はできていない. 一方,本疾患の本態解明の一助として同じホルスタイン牛に発生している遺伝性心筋症について病理学的,遺伝学的な調査を行った.心筋は心筋繊維の肥大と空胞変性を特徴とし,肥大した心筋繊維では筋繊維の枝分かれ像(fiber splitting)がみられた.遺伝学的に心筋症例の両親はいずれも,横隔膜筋症発症牛の共通祖先である一頭の種牛に遡れることが明らかとなった.このことから両疾患は遺伝的に重なり合う,表現型の異なる疾患である可能性が示唆された.
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