わが国のブドウ球菌食中毒原因菌のコアグラーゼ型はVII型が大多数を占めている。そこで我々はコアグラーゼVII型菌の特徴を知るためにパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)を応用した。1980-1995年の16年間に、東京都内の35地域で発生したブドウ球菌食中毒129事例から分離したコアグラーゼVII型菌129株について、PFGEによる遺伝子解析を行った。129株は3群(A-C)に分けられ、A群が115株、B群が10株、C群が4株で、AとC群はさらにサブパターン(A群は33型、C群は4型)に分けられ、多様性がみられた。また疫学的に興味深い所見として、同一地区で同じ遺伝子型の菌が1年あるいは2〜5年の周期で、繰り返し食中毒の原因菌になっていることである。PFGEタイピングはコアグラーゼVII型菌をさらに細かく分けることができることから、両者を組合せることにより、より詳細なブドウ球菌食中毒の疫学情報が得られるものと思われる。次に1スーパーマーケットで市販されていた食肉の黄色ブドウ球菌汚染状況を半年間にわたって追跡調査し、分離菌株についてPFGEを用いて疫学解析を行った。菌検出率は鶏肉70%(70/100検体)、豚肉36%(29/80検体)で、鶏肉が高率に汚染されていることがわかった。鶏肉70株は15パターン、豚肉29株は3パターンに分けられ、特に鶏肉は多様な遺伝子型菌で汚染されていた。また興味深い所見は同一店舗内で販売されていた鶏肉と豚肉がともに同じ遺伝子型の菌によって汚染されていたこと、同一遺伝子型の菌が調査期間中、鶏肉と豚肉から繰り返し検出されたことである。
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