研究概要 |
下垂体隆起部は今なお機能が不明であるが、最近日周リズムとの関連において俄に注目されるようになった。すなわち松果体より分泌されるメラトニンのリセプターが隆起部に高濃度に存在し、また哺乳動物において生物時計の中枢をなす視床下部視交叉上核で見い出された時計遺伝子-PeriodやTimelessが隆起部にも存在することが報告されたためである。筆者らはニワトリ隆起部細胞がLH,FSHおよびTSHに共通の糖蛋白であるα鎖とクロモグラニンAの強い免疫活性を示し、両蛋白が隆起部細胞の分泌顆粒内に共存することを免疫電子顕微鏡で示した(Kameda et al.,1998)。さらにα鎖mRNAを強く発現することをin situハイブリダイゼーションで示した(Kameda et al.,2000)。ニワトリ個体発生において、α鎖mRNAの発現は胎生4日目すなわちラトケ嚢が形成され始める時期から、将来前葉頭側葉になる部分の殆んどの細胞に強く発現し、また胎生8日目に隆起部原基が形成され始めるが、隆起部原基にも強く発現することがわかった(Kameda et al.,2000)。このような結果からα鎖は下垂体の細胞分化に深くかかわる物質と考えられる。さらに隆起部細胞で合成されるα鎖遺伝子および蛋白が日周リズムに深くかかわることを見い出した(Kameda et al.,2001)。すなわちニワトリを連続光照射(24h光)または暗黒(1h光:23h暗)内で長期間(3〜5週間)飼育すると隆起部細胞の細胞活性が著しく変化した。連続光照射下では分泌顆粒は肥大・増加し細胞は不活性な状態を示した。一方暗黒下では細胞質と核が大きくなり、分泌顆粒は小型化しまた顆粒放出像が著しく増加するなど、細胞は高活性な状態を呈した。隆起部のノーザン・ブロット分析を行うとα鎖mRNAは連続光照射群で著しく減少した。一方暗黒内1週間飼育では増加し、1ヶ月飼育でも正常対照群(12h光:12h暗)と変らない量のα鎖mRNAが存在した。このように日周リズムの変化で、隆起部細胞のα鎖合成能が著しく変化することがわかった。また松果体除去により隆起部のα鎖合成能は増加した。しかし松果体除去後も、日照時間の変化に対して非除去群と同様な変動を示した。隆起部は性周期など、日周リズムにかかわる内分泌機能を調節していると考えられる。
|