研究概要 |
申請者は、95年から98年にかけて英国リバプール大学生理学研究所留学中に、膵外分泌腺房細胞をモデル系として小胞体を中心にCa2+シグナルの研究に従事してきた。腺房細胞は、形態的には腺腔側領域はほとんど分泌顆粒で、基底側領域はよく発達した粗面小胞体と核で占められている。また、機能的にはホルモンや神経伝達物質による刺激で、単離細胞において、常に腺腔側より最初の[Ca2+]c変化が認められる。また、IP3や低濃度のアセチルコリンで刺激すると腺腔側に限局したCa2+振動を惹起できる。このように、膵腺房細胞は形態的、機能的に分極した細胞であり、Ca2+放出を研究する上で有用なモデル細胞である。この細胞において、先ほども述べたようにパッチクランプ法とCa2+イメージングを用いて、低親和性Ca2+蛍光色素を細胞内器官に負荷することにより、細胞内器官のCa2+濃度の測定可能な実験系を確立し(EMBO17:435-442,1998)、さらに詳細に小胞体内Ca2+動態を研究することを考えた。そして、すでに申請者は留学中に確立した実験系を、同じくマウス膵腺房細胞において再確立しつつある。現在、Ca2+感受性色素を小胞体と細胞質に別々に負荷した後、小胞体カルシウム濃度([Ca2+]ER)と細胞質カルシウム濃度の同時記録が可能となり、研究テーマの達成を目指しているところである。また新たにFRET(fluorescence resonance energy transfer)を応用したCa2+指示薬(cameleon)を遺伝子工学的に小胞体に導入し、より正確な小胞体カルシウム濃度測定を目指しているところである。
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