研究概要 |
平成11年度は,マイクロスフェア脳塞栓モデルでは記憶学習能低下には一部のACh系神経損傷が伴っている可能性を示唆した.本年度はこの点を先ず明らかにする研究を実施した.海馬スライスでのACh受容体刺激に反応する情報伝達経路一部の活性化(MAP kinaseの活性化)は脳虚血で低下した.この活性低下は情報伝達系のPKC/MAP kinase系の中のGαq subunitのチロシンリン酸化が進行しないためと判明した.即ち,マイクロスフェア脳塞栓による記憶学習機能障害の一因として情報伝達系Gαqの障害が推察された. 一方,神経再生過程を検索するためにマイクロスフェア脳塞栓ラットにおいて,神経再生因子であるbrain-derived neurotrophic factor(BDNF),growth-associated protein 43(GAP43),nerve adhesion molecule L1の変化を追跡した.神経成長因子であるBDNFはマイクロスフェア塞栓7日目の両側海馬で増大した.神経成長指標であるGAP43は梗塞部位では到底認められないが,梗塞周縁部位では増大する部位が認められた.一方,細胞接着因子であるL1は梗塞部位では勿論,梗塞周縁部位でも発現は増大しなかった.海馬部位自体ではGAP43およびL1のタンパクがむしろ低下したことを認めた.この事実は梗塞部位ではまったく神経再生は発現していないこと,梗塞周縁部位の一部では神経成長因子,神経成長指標は活動する気配はあるが,神経接着因子の協調が認められないため,最終的には神経成長は発現できないこと,その結果,虚血障害は増悪し,結局は神経細胞壊死につながることが推測された.
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