研究概要 |
真核生物ではミトコンドリアのATP合成酵素がほとんどのATPを供給している。本酵素ではγサブユニットの筋特異的なアイソフォームが選択的スプライシングにて生成される。本研究ではヒトATP合成酵素γサブユニットの筋特異的スプライシング調節のシス領域およびトランス因子を同定し、筋特異的な選択的スプライシングの分子メカニズムを解明することを目的とした。申請者は培養細胞を用いて筋特異的なスプライシングの誘導系を確立し、これを用いてin vitro系で筋特異的なスプライシング反応を構築した。この系を用いて、本遺伝子のカセット型エキソン上に構成的なスプライシングの条件で働くスプライシングエンハンサー配列(Exonic Splicing Enhancer, ESE)、筋特異的に働くエキソン上のスプライシングサイレンサー(Muscle-Specific Exonic Splicing Silencer, MS-ESS)配列を明らかにした。これらの各配列に結合するトランス因子をノースウエスタン法やUVクロスリンク法にて検討したところ、各々約48kDaと42kDaのRNA結合蛋白が検出された。現在精製中である。次に、in vivoの筋分化過程におけるスプライシング調節過程を検討した。ESEやMS-ESSのシス配列に変異を導入したミニ遺伝子を用いてトランスジェニックマウスを作成し、各臓器におけるスプライシングパターンを検討したところ、筋管細胞と成熟筋繊維ではスプライシング調節メカニズムが異なることが示された。今後、筋特異的なスプライシング調節因子を同定することが、これらの分子メカニズムを詳細に解明できると思われる。
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