研究概要 |
腫瘍壊死因子(TNF-α)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)等によるヒト末梢血好中球のプライミングには、チロシンキナーゼの活性化と数種の蛋白質のチロシンリン酸化が関与する。ウエスタンブロッテングと免疫沈降法による解析の結果、ヒト末梢血好中球にはLyn,Syk,Fgr,Hck,Btkの5種のチロシンリン酸化酵素が存在し、TNF-αによってLynとSykキナーゼが著明に活性化されることが判明した。また、プライミングによるスーパーオキシド産生およびチロシンリン酸化がSykキナーゼ阻害剤piceatannolにより抑制されることより、Sykキナーゼの関与が強いことが示唆された。この際、プライミングと平衡して115kDa蛋白質がリン酸化されることから、本反応がプライミングに関与する可能性が考えられる。プライミングはJAK2キナーゼ阻害剤AG490によって全く抑制されない。プロトオンコジーンc-Cblの抗体を用いた免疫沈降解析により、115kDa蛋白質の一部はc-Cblであることが判明した。好中球様に分化したHL-60細胞を用いてTNF-α依存性プライミング反応におけるチロシンキナーゼの関与を解析した結果、末梢血好中球と同様に、srcキナーゼと115kDa蛋白質のリン酸化と同時にスーパーオキシドが産生されることが判明した。c-Cblのアンチセンスを用いた解析により、本プライミングの一部にc-Cblが関与する可能性が示唆された。さらに、P38MAP kinaseの抑制剤や免疫抑制剤として知られるサイクロスポリンがチロシンリン酸化を抑制することなくプライミング反応を抑制することから、MAP kinaseやPI3 kinaseなどのリン酸化酵素が本現象に関与する可能性が示された。
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