研究概要 |
滑膜肉腫ではt(X;18)(p11.2;q11.2)転座が95%以上の症例に認められる.この転座によりSYT遺伝子とSSX遺伝子とが再配列し,その結果生じたSYT-SSXキメラ遺伝子が滑膜肉腫の腫瘍発生に深く関与している.このキメラ遺伝子の検出は病理補助診断としても有用である.われわれは細胞診標本およびホルマリン固定組職標本から抽出したRNAを用いて高感度RT-PCRによりSYT-SSXキメラ遺伝子を検出し,90%以上の症例において滑膜肉腫の遺伝子診断が可能であった.次にわれわれは転座するSSX1とSSX2が及ぼす臨床病理学的意義について検討した.手術時遠隔転移を認めない滑膜肉腫患者を対象にした.腫瘍の病理標本からRNAを抽出し,再構成しているSSX遺伝子の種類を同定した.免疫組織学的に細胞周期関連蛋白であるKi67,p27,癌抑制遺伝子p53,およびアポトーシス関連蛋白bcl-2の発現を調べた.そしてSSX遺伝子の種類(SSX1またはSSX2)と組織型,核分裂像,Ki67,p27,p53,bcl-2の発現,臨床データ,予後との関連を統計学的に解析した.その結果,SYT-SSX1遺伝子はKi67の高発現と核分裂像の増加とに高い相関を認めたが,その他の因子との相関は明らかではなかった.さらに予後に関与する因子においては,SYT-SSX1,Ki67,核分裂像は無転移生存率の重要な危険因子であった.これらのことから再構成するSSX遺伝子の種類は腫瘍細胞増殖能に関連しており,予後を規定する因子であると考えられた.次にSYT-SSX遺伝子が細胞増殖能を高めるメカニズムを検索している.SYT-SSX遺伝子は明らかなDNAおよびRNA結合部位を持たないため,蛋白-蛋白の相互作用により腫瘍化能を付与していると考えられる.われわれは,SYT-SSX蛋白と結合する未知の蛋白のスクリーニングを,酵母細胞への遺伝子導入系を用いたTwo-hybrid法にて行った.その結果,数種の細胞周期関連蛋白がスクリーニングされた.現在,これらの細胞周期関連蛋白が滑膜肉腫の腫瘍発生にどのように関与しているか検討中である.
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