研究概要 |
種々の肝疾患において,線維化や炎症と共に細胆管が増生することが知られている(細胆管反応).細胆管反応の成因の一つとして成熟肝細胞の胆管上皮化生が考えられているが,メカニズムは不明である.我々は本研究で,肝細胞のコラーゲンゲル内三次元培養系を用い,肝細胞の胆管化生における蛋白チロシンリン酸化の意義について検討した.また,肝細胞の分化調節に対する肝非実質細胞,特にKupffer細胞,の影響についても検討した.研究成績の概要は以下の通りである. (1)成熟肝細胞の凝集塊をtype I コラーゲンゲル内に包埋し,insulin,EGFまたはHGF存在下で三次元培養を行うと,1週間以内に凝集塊から樹枝状細胞突起が伸長し,これらに胆管上皮特異的なcytokeratin(CK)19およびCK20が発現する.また,これらの突起は3週間以上の長期培養により,電顕的に明瞭な基底膜を有する胆管に類似した管状構造を形成する. (2)代表的な蛋白チロシン脱リン酸化酵素阻害剤であるsodium orthovanadateは,培養肝細胞の蛋白チロシンリン酸化レベルを持続的に亢進させると同時に,樹枝状形態形成とCK19,CK20発現を強く促進する. (3)樹枝状形態形成は肝の非実質細胞由来液性因子,特にKupffer細胞由来interleukin6(IL-6)やtransforming growth factor-α(TNF-α)により著明に促進される. 以上より,肝細胞から胆管上皮への分化にはコラーゲン基質や非実質細胞との相互作用および蛋白チロシンリン酸化による調節が関与していることが明らかになった.我々の肝細胞三次元培養系は,慢性肝疾患のin vitroモデルとして,肝細胞分化異常のメカニズムの理解および治療法の開発に有用であると考えられる.
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