研究概要 |
環境汚染物質として注目されているダイオキシン類及び芳香族炭化水素類(PAH)は細胞内PAH受容体(Aryl-hydrocarbon receptor;AhR)と会合後、核内へ移行し、Aryl-hydrocarbon nuclear translo catorと複合体を形成し薬物代謝酵素CYP1A1等の遺伝子の転写誘導を行う。PAH自体はDNA結合性が無く、CYP1A1、CYP1B1により代謝を受け、究極発癌性物質へと転換し、DNA付加体を形成する。本研究はAhR遺伝子ノックアウトマウス(AhRマウス)を用い、発癌性PAH類ベンツピレン(BP)、ジメチルベンツアントラセン(DMBA)、ジベンゾ[a,l]ピレン(DB[a,l]P)の3種についてAhRを介した遺伝子活性化経路のマウス皮膚発がん実験系に及ぼす効果について検討を行した。(1)BP;野生型正常マウスではBPの週一回連続塗布実験及び皮下注射による肉腫誘発実験の両実験で90%以上に腫瘍発生が観察されたが、AhRマウスは、全く腫瘍が誘発されなかった。(2)DMBA:野生型マウスは実験開始後11週からパピローマが観察されたが、AhRマウスでは2週間遅れ腫瘍発生が認められた。25週後の発生頻度は同程度となり、有意差は認められなかった。(3)DB[a,l]P;DB[a,l]Pの2回塗布により野生型マウスは皮膚毒性の為潰瘍及び過形成が認められたが、AhRマウスは全く反応を示さなかった。DB[a,l]P塗布6日後のS期細胞数増加もまた、AhRマウスは有意に抑制された。腫瘍誘発実験では野生型正常マウスの腫瘍発生率は扁平上皮癌を含む100%であった。しかし、AhRマウスの腫瘍発生は一月遅れで、24週後では30%の発生率であり、全て良性パピローマであった。以上AhRマウスでの発癌は有意に抑制されていた。興味深いことに発癌実験条件で塗布した皮膚でのDNA付加体量は同程度を示していた。そこで、再度CYP1A1,CYP1B1の発現を増幅サイクル数を増やしたRT-PCR法を行った結果、AhRとは無関係にDB[a,l]P投与によりCYP1A1が誘導され、CYP1B1は恒常的に低レベルで発現してDB[a,l]Pを代謝活性化している可能性が示唆された。AhR経路を介したシグナルトランスダクションでの遺伝子活性化経路が発癌のイニシエーションとプロモーション両過程に影響を及ぼすことが明確となった。
|