研究概要 |
平成11年度から13年度の3年間にわたる科学研究費の交付期間中に達成された眼型トキソカラ症の発症機序に関する研究成果の概要は以下の通りである。 (1)眼トキソカラ症の動物実験モデルとしてスナネズミスナネズミ(Meriones unguiculatus)がこれまで報告されたいかなる動物よりも眼病変の発症率が高いことを発見した。またその病変はイヌ回虫卵の単一回経口投与によっておき,これまでの眼内直接投与による病変と異なり,ヒトの発症病理を理解する上できわめて優れたモデル動物であることを明らかにすることができた。 (2)スナネズミの眼底に出現した病変を病理組織学的に検討した結果,出血病変は網膜深層出血、表層出血に分類でき,一部の個体では網膜神経層の増殖病変や好酸球浸潤を伴った血管炎が観察された。このような病変の出現頻度と分布は小動物用眼底観察装置を用いて詳細に経過を観察し,スナネズミにおける眼トキソカラ症のnatural historyを明らかにし得たことは重要な成果であった。 (3)このスナネズミをモデル動物として用いることによって,ネコ回虫によってもイヌ回虫幼虫と同じ出血病変が網膜内に出現することを証明することができた。 (4)スナネズミに感染したイヌ回虫幼虫の眼内移行経路を追究するために生きた幼虫17匹の大脳に直接注入したところ17匹中1匹は24時間以内に死亡したが、生存した16匹中8匹(50%)の眼底に幼虫注入後6日目で出血病巣を認めることができた。また、1匹については出血病変は認められなかったが網膜上に幼虫を確認することができた。まったく病変を認めることができなかったのは7匹(43%)であった。病理組織学的に、視紳経と視交叉に幼虫の断端を認めた。また、視神経の周囲には好酸球浸潤を伴っていた。このことから,大脳内の幼虫は視交叉を通り視神経から網膜にはいることが実験的に確かめられた。一方,内伏在静脈から直接生きた幼虫を注入した実験では網膜に幼虫の出現を認めず,また出血性病変も認めなかった。 (5)眼トキソカラ症を発症したスナネズミの眼内液中にイヌ回虫幼虫排泄物抗原特異的な抗体を証明することができた。
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