研究概要 |
腸管寄生線虫Nippostrongylus brasiliensis(Nb)を感染させると,ラットでは感染2週後に,マウスでは感染1週〜10日後に腸管膜リンパ節(MLN)の腫大が最大に達し,CD4^+もCD8^+T細胞もともに著明に増殖してきた.この頃のMLNでは,CD4^+,CD8^+T細胞のいずれでも,IL-3とIL-5,IL-13等のtype2サイトカインの著明な発現増強が認められたが,IL-4はCD4^+でのみ発現が増強しCD8^+ではまったく検出されないままであった.一方CD4^+,CD8^+ともにtype1サイトカインの発現は変化がないか小幅の増加にとどまった.IL-10 mRNAは,CD4^+では中等度の発現のままで変化を認めなかったが,CD8^+ではごく少量の発現から大きく増加した.以上からNb感染では,MLNにIL-4の発現がなく抑制性サイトカインとしてはIL-10とIL-13を強く発現しているCD8^+T細胞が著しく増加してくる,という特徴があることが明らかとなった.また,マウスMLN細胞に対してELISPOTをおこなうと,CD4^+に比べて感染後実際にIL-4を分泌しているCD8^+はごくわずかであった.次いでNbの分泌排泄抗原(ES)をConA刺激下にin vitroで添加してみると,CD4^+,CD8^+のいずれに対してもそれらのIFN-γ産生能を転写活性以降の段階で濃度依存的に,かつ他のサイトカインを介さず直接作用して抑制するが,CD4^+からのIL-4およびCD4^+,CD8^+からのIL-10の産生能には何ら影響を与えなかった.IFN-γ産生の抑制があるにも関わらずCD8^+では,type2サイトカインの中でもIL-4の発現増強のみがみられなかったので,CD8^+ではIL-4の発現を特異的に抑制する何らかの機構が働いているのかもしれない.こうした特徴をもつCD8^+T細胞の役割を調べるために,抗CD8抗体投与マウス或いはCD8欠損マウスにNbを感染させて正常マウスと比較してみた.感染後の組織学的な変化や治癒過程,およびMLNでのサイトカインの発現の変化に両者の間であまり大きな差異は認められなかった.以上からNb感染に反応してMLNではCD4^+,CD8^+ともに著増するが,CD8^+サイトカインの発現形態はCD4^+とは異なっていることが明らかとなり,しかしながらそのCD8^+T細胞は線虫感染による組織学的変化やサイトカイン環境の誘導には大きな関わりはないものと推測された.
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