研究概要 |
我々はボリビア・サンタクルズ地区に於いて,先天性シャーガス病児の出生が多いことから,その要因について調査検討を継続した.本疾患のキャリアーと考えられるTrypanosoma cruzi(T.cruzi)の慢性感染母親について,その抗体の推移と虫血症の関連性について検討した.その結果PCR法では慢性感染状態にある妊婦の血液内にT.cruzi-DNAの存在を示唆し,その多く(85.7%)はXenodiagnosisに於いても虫体を認めた.しかし,慢性感染の母親の血液中では虫の出現があったり無かったりと,その消長は一定ではないことが判明した.血清抗体の推移は蛍光抗体法で250倍から4096倍以上と比較的高い抗体価を維持した.しかし明らかに臨床的に異常を示す者は少なかった.従ってPCR法の臨床診断的意義に於いては更なる検討が待たれる.しかし,先天性感染シャーガス病児の治療後の予後診断的意義は充分にあることが確認された.一方,Triatoma infestans(T.infestans)より分離したT.cruzi虫体を用いて,実験動物に対する感染性,病原性について検討した.その結果ボリビアのT.infestansより分離したT.cruzi虫体をマウスに腹腔接種すると,マウスは長期間に渡り虫血症を示し,慢性感染の状態を呈し生残した.抗体陽性でもT.cruzi虫体を血液中に検出する現象は,ボリビアの慢性患者と類似している.これらのT.cruzi虫体が南米広く分布しているが,地理的に異なる分布とT.cruzi虫体の遺伝的構造がそれぞれ異なることが知られている.本疾患の流行地,ボリビア・サンタクルズ地域で採取したT.infestansより分離したT.cruzi虫体及び先天性感染児より分離したT.cruzi虫体など複数の株についてのアイソザイム解析を行なった.その結果18株の内Group-1に属するものが8株,Group-3に属するものが10株あることが判明したが,単純にGroup-3のカテゴリーではなく,Group-2とのハイブリッド型であることが強く示唆された.このT.cruzi虫体の遺伝的構造の差異が,臨床的病期病型と関係があるとすれば,更にこの地域での先天性感染シャーガス病との関連については詳細な検討が待たれる.
|