研究概要 |
Platelet-activating factor(PAF)は血小板のみならず,白血球,平滑筋,神経など種々の臓器・細胞に対して強力な活性を有するリン脂質で,多くの病態における役割が注目されている.また,一般のエーテル・リン脂質は酸化によって2位の不飽和脂肪アルコールが切断され短くなるとPAFと同様の活性を獲得する.一方,血漿中にはPAFや酸化脂質を不活性化する酵素PAFアセチルヒドロラーゼ(PAF-AH)が高レベルで含まれるが,日本人の約4%に本酵素の欠損症が見らわ,その大多数が遺伝子変異(G994T)によるが、この変異は脳血管障害や虚血性心疾患の危険因子である可能性が指摘されている。 この研究では、最初に血漿PAF-AH欠損症遺伝子の頻度が健康な常習的喫煙者と非喫煙者とで差がないことを明らかにした。即ち、非喫煙者における変異ホモ接合体、ヘテロ接合体の頻度はそれぞれ1.5%、25.1%、喫煙者ではそれぞれ2.7%、33.6%と、有意な差はみられず、喫煙群においてむしろ変異遺伝子頻度が高い傾向が見られた。また、健康人における変異遺伝子頻度は年齢階級によって変化せず、性差もみられなかった。更に、動脈硬化症の危険因子である肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症のいずれかを有する群とこれらの異常を持たない正常群との比較では、前者における変異ホモ、ヘテロの頻度がそれぞれ2.8%、30.0%、後者の群ではそれぞれ2.9%、27.3%と推計学的に有意の差は認められなかった。しかしながら、酵素活性を遺伝子型別に検討すると、特に50歳以上の遺伝子型正常群では、危険因子を有する例の活性が有しない例に比べて有意に低かった(51±19vs43±16nmol/ml/min,p<0.01)。遺伝子型がヘテロの群においても同様の傾向がみられた。 急性の喫煙負荷を行うと、負荷直後の血中にPAFと同様の白血球凝集活性が検出され、凝集活性はPAF-AH遺伝子正常例に比べて変異例において高値であった。 以上の結果から、血漿PAF-AHは生活習慣病を初めとする種々の疾患に伴って高値となるが、遺伝子変異などでその上昇が不十分な場合には疾患のリスクを高めるものと考えられた。
|