研究概要 |
本研究では、聴覚に対する騒音と有機溶剤の複合曝露による相乗影響を動物実験および産業疫学的調査により明らかにした。 動物実験では、被検動物としてモルモットを用い、産業現場で最もよく使われている有機溶剤の一つであるメタノールと聴覚に影響を与える最も一般的な物理的要因である騒音を曝露した。聴覚の指標として、聴性脳幹反応による聴覚閾値を測定した。メタノール単独曝露からメタノールが聴覚に影響を及ぼす最低限の曝露濃度は1,900ppmから2,400ppmの間に存在すること、騒音単独曝露からwhite noise 105dB曝露で有意に閾値が上昇することを認めた、メタノール単独では影響のでないメタノール1,500ppm、1,900ppmと、騒音単独では影響がほとんどでない100dBのwhite noiseを複合曝露した結果、8kHzと4kHzにおいて有意な閾値変動を認めた。単独で影響のでない曝露量であっても、それらを複合曝露することにより影響が現れ、刺激音8kHzにおいては1,900ppm曝露の方が1,500ppm曝露より大きな閾値上昇がみられたことから量反応関係が存在し、さらにそれぞれ単独曝露による影響を合わせたものより大きいことから、その影響が相乗的であることが分かった。 産業疫学的調査として有機溶剤を使用し、かつ騒音にもさらされている工場の従業員93名について調査した結果、最高可聴閾をみると正常加齢曲線と比較して低下している者の割合が有意に多く、取扱い年数5年以上では取扱い年数の増加に伴い、最高可聴閾が75パーセンタイル以上の耳の割合が直線的に増加していた。環境調査結果から、許容濃度以下の比較的低濃度の有機溶剤曝露と85dB以下の低レベルの騒音曝露にもかかわらず、作業者に最高可聴閾の低下が認められ、有機溶剤と騒音の複合曝露による相乗影響として聴覚に影響が現れることが分かった。
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