研究概要 |
本研究は,地域に在住する独り暮し老人の循環系疾患発症・増悪を予防する血圧管理指導に資するため,日常生活時の血圧変動に関連する要因,特に睡眠障害および抑うつ症状との関連を明らかにすることを目的とした.(1)居宅にて生活している65才以上の者2,756人を対象とした自記式質問紙調査を実施し,独り暮し老人の抑うつ症状と睡眠状況について検討した.独り暮し老人の割合は,前期高齢期で6.5%,後期高齢期で12.7%であり,その男女比は約1:3であった.独り暮し老人の基本的・手段的ADLの水準は同居者のいる者と同程度であった.独り暮し老人の睡眠状況は,同居者のいる者と特に差異がみられなかった.熟睡感が悪くなるほど抑うつ症状が強いとの関係は同居者の有無に関わらず同様であったが,熟睡感の比較的悪い群では独居が抑うつ症状を少し増強させていた.(2)地域に在住し自立した生活機能を持つ高齢者41人について,睡眠状況・抑うつ状況と日常生活時血圧変動との関連を検討した.高血圧者は,覚醒時・夜間睡眠時ともに高い収縮期・拡張期血圧値を示した.自覚的睡眠感の日常生活時血圧変動に対する影響は明らかでなかった.夜間睡眠時の覚醒時間が長いほど拡張期血圧・脈拍の変動が大きくなる傾向にあった.抑うつ状況と睡眠関連指標との間には明らかな関連がみられなかった.高血圧者では,抑うつ症状が強いほど夜間睡眠時の拡張期血圧の低下が少なかった.これらの結果より,抑うつ状況と睡眠状況の日常生活時血圧変動との関連はそれぞれ独立しており,また高血圧の有無にも影響を受けていることを示した.地域に在住する高齢者の循環系疾患予防のための血圧管理上の焦点として,(1)血圧が高いこと,(2)夜間睡眠時の血圧変動が大きいこと,(3)夜間睡眠時の血圧低下が少ないことが,抑うつ・睡眠障害との関連から問題であることが示唆された.
|