研究概要 |
トルエンは青少年の濫用薬物の中心であるシンナーの主成分であり,脳に親和性が高く,様々な神経・精神症状を呈することは良く知られている.本研究ではトルエン吸引による副腎の変化について検討した.Wistar系雄性ラット(10週齢)を用い,トルエン(1,000ppm)を1日4時間吸入させた.対照群,4日間吸入群,7日間吸入群,10日間吸入群(各群4匹)について検討した.その結果,トルエン吸入により,副腎肥大,特に皮質肥大が生じることが明らかになった.その発生機序として,血中ACTH濃度に有意の差は認められなかったものの,視床-下垂体-副腎系を介した機序が示唆された.副腎皮質肥大に基づき,副腎皮質内分泌機能の変化が考えられたものの,血中aldosteroneおよび副腎皮質ホルモン合成酵素(P450scc、3β-HSD)のmRNA量に有意の差は認められなかった.ホルモンの合成・分泌の亢進はあったとしても吸入期間の短い時期の一時的変化に留まるものと考えられた. また,副腎髄質の変化として,神経栄養因子であるGDNFの発現亢進が認められた.髄質細胞,脊髄のIML神経細胞についてHSP70およびc-Fosを免疫組織化学的に検討したところ,副腎髄質におけるGDNFの発現は,トルエンによる脊髄のIML神経細胞障害に対応した変化と考えられた.この結果は,トルエン吸入によって,脊髄にも障害が生じていることを明らかにすると共に,その障害発生の抑制に副腎髄質細胞が関与している可能性を示唆している.
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