研究概要 |
脳の虚血およびストレスにおけるグリア細胞・ニューロン応答を探求するため、我々は、外傷性脳損傷によって死亡したヒトの脳におけるinducible nitric oxide synthase(iNOS)およびapolipoprotein E(apoE)の誘導・発現動態を検討した。 iNOSおよびapoEの局在を免疫組織化学的手法にて評価した.まず、iNOSにおいては、受傷後2日生存例までは,iNOSは同定できなかったが,それ以降はiNOSの免疫反応性が,損傷を受けた大脳半球の壊死部周囲,出血部に隣接した深部皮質や海馬歯状回の好中球,ミクログリア/マクロファージおよび損傷部位周囲の小・細動脈の血管平滑筋細胞に認められ,この反応性は,受傷後8日以降では消失していた.次ぎにapoEにおいては、大脳皮質において障害部位とその反対側では染色性に著しい違いが認められた。障害側では早期からニューロンが陽性を示したのに対して、反対側では全く陽性像が認められなかった。この障害側のニューロン陽性像は、約10日以降の生存例では染色性も弱くなり、その数も次第に減少していた。アストロサイトに認められる陽性像は早期では障害側、反対側双方とも弱い発現しか認められなかったが、障害側では短期から長期生存例で強い陽性像が認められ、約1ヶ月以上の生存例でも陽性像が認められた。なお、ミクログリアにはいずれの症例においてもapoEの発現は認められなかった。 これらの知見は、受傷脳におけるiNOSおよびapoEの遷延する細胞内誘導を実証しており、このような応答は、iNOSおよびapoEが外傷後の脳血管障害や二次的脳障害に対し重要な役害を果たすことを示唆しているものと考える。
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