研究概要 |
本研究は炎症における好中球機能の調節、とりわけ組織障害抑制機構としてのアポトーシスの役割の解明と好中球のアポトーシスに基づく損傷の受傷経過時間推定のための基礎的知見を得ることを目的とするものであり、平成11年度は、好中球のアポトーシスに及ぼす貪食の影響を貪食量および貪食後の経過時間に関して詳細に検討した。その結果、貪食は好中球のアポトーシスに影響しないことが示されたが、炎症の場においては好中球は炎症のメディエーター(LPS)や炎症性サイトカイン(IL-1β)などの影響下にあると考えられることから、好中球にLPSやIL-1βを作用させると好中球のアポトーシスは抑制された。しかし、LPSやIL-1βの存在下における貪食はアポトーシスの抑制を解消した。平成12年度においては、貪食が好中球の種々の活性(走化性,活性酸素産生,TNF-α産生)に及ぼす影響を検討した。好中球のアポトーシスを抑制するLPSは好中球の活性酸素およびTNF-αの産生を増大させたが、LPS存在下での貪食はこれらの細胞障害性物質の産生を抑制した。また、LPSはザイモザン処理血清に対する好中球の走化性を抑制したが、LPS存在下での貪食はLPSによる走化性の抑制を明らかに解消した。これらの結果は、LPSやIL-1βは炎症の初期において好中球を活性化するとともにアポトーシスを抑制することにより障害を受けた細胞の排除や殺菌等の好中球の機能を発揮させる。一方、炎症の後期においては破壊された細胞の残渣や細菌を貪食することにより再び好中球はアポトーシスに向かうと同時に細胞障害活性や走化性が変化することを示すものと思われる。本研究で得られた以上の知見は、炎症における生体防御と組織障害抑制機構の一部を成すものと考えられる。
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