研究概要 |
この研究では生態の機能的障害、特に寒冷環境に暴露された場合に生じる障害をアミロイド前駆タンパク質(APP)をマーカーとして検出し,法医診断学的応用を試みるために,動物を使用したモデル実験解剖事例における基礎データの収集および解析を行った。その結果,寒冷の暴露によりラットの脳分画、特に大脳皮質,海馬,小脳および延髄でAPPが変動することが明らかとなった。しかしながら,APPは加齢によっても変動することが明らかとなり,人における死因との関係を検討するためには年齢を考慮する必要が生じた。そこで,Bufferとのホモジネートによって抽出されるAPPに加え,ホモジネートの遠心沈査を両性界面活性剤および両性電解質を含むBufferで再抽出し,両APPの比と死因との関係を検討した。 しかし,この研究期間中に目的とした凍死事例は1例しか得られなかったので,研究の中心を他の外因死事例とAPPの比と死因との関係に変更した。外因死事例を窒息事例,開放性の損傷を伴う事例、覚醒剤中毒事例および凍死事例に分類し,脳各分画より測定されたAPPの比と死因との関係を検討すると,窒息事例では小脳および延髄のAPPの比は,頚部圧迫<気道閉塞<異物吸飲≒溺死<酸素欠乏の順で増加した。損傷を伴う事例では,小脳および延髄のAPPの比は,内因死≒外傷性ショック<出血性ショック<失血の順で増加した。これらは,障害発生から死に至るまでの時間の長さに比例して高くなる傾向があることが判明した。しかし,このような変化は,大脳皮質および海馬では認められなかった。また,覚醒剤中毒事例ではいずれの脳分画とも死因との明らかな相関は認められなかった。一方,凍死事例は1例のみの検討であったが,大脳皮質および海馬のAPP比が他の死因と比べて極端に高くなっていた。
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