研究概要 |
Barrett(B)上皮をその長さによりshort,middle,long-segmentに分類し大腸型ムチン,小腸型ムチン,胃型ムチン,p53,マトリライシンの発現を調べ,これをB腺癌8例と比較した.なお大腸型ムチンは硫酸化糖鎖SO3-Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcを,小腸型ムチンはシアル酸化糖鎖NANA-GalNAcを,胃型ムチンはMUC5ACならびにMUC6を指標とした.1.胃萎縮および逆流性食道炎の重症度上部消化管内視鏡検査でshort Bは12.6%,middle Bは2.5%long Bは0.6%に見られ,これらの症例は有意に胃の萎縮が軽度で裂孔ヘルニアの合併ならびに逆流性食道炎の合併頻度が高かった.2.B上皮のムチンコア蛋白ならびに糖鎖の発現:short Bでは胃型は93.3%に発現していたが大腸型ムチンならびに小腸型ムチンは18.8%,25.0%と低くかった.long Bでは逆に胃型は33.3%で大腸型ムチンならびに小腸型ムチンは91.7%,66.7%と高頻度に発現が見られた.middle Bは両者の中間的な発現を示した.3.B癌におけるムチンコア蛋白,ムチン糖鎖,p53ならびにマトリライシンの発現:B癌での大腸型,小腸型,胃型の発現はそれぞれ100%,50%,25%であった.p53はB癌全例でover expressionを示し,マトリライシンはB癌の60%に検出され,特にその浸潤先進部に陽性であった.新鮮切除標本の得られた1例での検討ではカゼインザイモグラプィーによりMatrilysinの移動度から活性型matrilysinの占める割合が多かった.B癌に隣接するB上皮は全て大腸型ムチンを強発現した.4.B癌とB上皮に特異的な大腸型ムチンのcore peptideを検出すべく免疫組織染色,Enzymeimmunoassay法を行った。小腸型ムチンシアル酸化糖鎖NANA-GalNAcとMUC2抗体の染色は一致し,Sialomucin分画には抗MUC2抗体が結合した。大腸型ムチン硫酸化糖鎖SO3-Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcならびにsulfomucin分画にはMUC1,MUC2,MUC3,MUC5AC,MUC6ならびにA3D4に対する抗体では反応性は認められなかった.以上よりB上皮はshort→middle→longと長さの伸長に伴いムチンコア蛋白おょびムチン糖鎖のintestinalizationがおき,B癌ではこの傾向が一層顕著となることが認められた.またmicrosatellite instabilityを合わせて検討したがMSHは認められず,P53陽性頻度から考えるとB癌はintestinal typeの癌ではあるがDNA repairの異常による発癌経路とは異なるmecha-nismで発癌すると考えられた. 内視鏡的な検討からは胃の萎縮性変化が軽度であり裂孔ヘルニアや逆流性食道炎の合併率の高さから胃酸の逆流が関連していると思われ,middleないしshort Bの頻度も決して無視できるものではなく,この部分のintestinalizationを内視鏡でgastric phenotype Bから鑑別し狙撃生検をすることはmetaplasiaさらにはdysplasiaを早期に発見しうる点で有用と思われ,今後は拡大内視鏡によるB上皮のphenotype分類を行う必要があろう.また酸逆流の抑制がB上皮のphenotypeの変化をもたらすのか否かもB癌のchemopreventionの面から興味深い。
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