研究概要 |
本研究ではアミノ酸、特にグリシンの細胞、臓器保護作用および免疫調節作用に基づく消化器系疾患の新たな治療方法の確立を目指して基礎的検討を行った。具体的には(1)グリシンの肝障害抑制機構、殊に肝類洞内皮細胞に対する保護作用に関する検討および(2)炎症性腸疾患動物モデルを用いたグリシンの腸炎抑制効果に関する検討を中心に行ってきた。 平成11年度および12年度は主に初代培養ラット肝類洞内皮細胞の増殖因子(VEGF)枯渇時に生じる細胞死(アポトーシス)に対するグリシンの保護作用について検討を行い、この現象がグリシンレセプター依存性で、さらに抗アポトーシス分子Bcl-2の発現レベル調節を介する作用であることを明らかにした(Zhang et al. Hepatology 32:542-546,2000)。また、米国ノースカロライナ大学RG Thurman教授との共同研究によりグリシンの好中球活性化抑制作用が明らかになり(Wbeeler et al.,FASEB J.14:476-484,2000)、好中球活性化を伴う多くの炎症性疾患に対するグリシンの有用性が示唆された。 そこで平成13年度は炎症性腸疾患モデル(TNBS大腸炎)におけるグリシンの腸炎抑制効果について検討した。私たちはTNBS腸炎がグリシン経口前処置で著明に抑制されることを見出し、この際にIL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカインの発現抑制と共にCINC、MIP-2などのケモカイン発現誘導が著明に抑制されることを明らかにした(未発表データ)。私たちがこれまで報告したグリシンのマクロファージ活性化抑制作用(Ikejima et al.,Am. J. Physiol.,1997)および上述の好中球活性化抑制作用に加えて、グリシンが好中球走化性ケモカインの発現誘導抑制を介して腸炎を抑制する可能性が考えられ、炎症性腸疾患に対するグリシンを用いた免疫栄養療法の有用性が示唆された(投稿中)。
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