研究概要 |
特発性間質性肺炎(IPF)患者は,肺由来コレクチン(SP-A,SP-D)の血清濃度が高値であること,しばしば気道感染を契機に急激に増悪し死の転帰をとることから,SP-A,SP-Dの肺内外での病的変動が本疾患患者の病勢や予後を左右するとの仮説をたて,臨床病態,血清濃度および肺胞内濃度との関係を調べた。また,どのようなメカニズムによってコレクチンが,肺内炎症の拡大と消褪に関っているかを明らかにする目的で,細菌由来成分(LPS,PGN)と肺胞マクロファージ系細胞株(U937細胞)間の刺激応答系への作用をin vitro下に検討した。 予後調査(3年間)の結果,呼吸不全の重症度に関らず,初診時の血清SP-A濃度および血清SP-D濃度は,生存例に比し死亡例において有意に高値であった。また,血清SP-AとSP-D濃度を上昇させる主原因が,基底膜の損傷に基づく「肺胞腔から血液への逸脱亢進」であることが動物実験の結果により示された。健康人に比し,IPF患者では肺胞腔内のSP-A,SP-D濃度が低下していること,とくに肺胞腔内のSP-A/リン脂質比が低い患者ほど予後不良であることも過去に報告済みである。以上をまとめて考察すると,SP-AとSP-Dが末梢気道・肺胞内で異常減少することがIPFの予後を悪化させている可能性が示唆される。in vitro実験では,SP-Aが,LPS,CD14の双方と結合能し,U937細胞での炎症性サイトカイン(TNFα)産生能を変調させること,その振る舞いがLPSの種類(rough/smooth)によって全く異なることを示し,SP-A機能の多様性を示唆する結果が得られた。また,SP-Aは黄色ブドウ球菌由来PGN刺激によるTNFα産生亢進を顕著に抑制した。以上の結果から,IPF患者においては、肺胞腔内SP-A異常減少が,気道感染を契機とする炎症拡大を容認し,急性増悪,死の転帰に至らしめることにつながると考えられた。
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