研究概要 |
アポリポ蛋白E (ApoE)には遺伝子多型としてε2,ε3,ε4の3種類が知られている。近年の研究により、ApoEε4はアルツハイマー病発症にあたっての遺伝的な危険因子であることが確認された。分子レベルではApoEがアルツハイマー病の病態形成にどのように関与しているかは明らかになっていないが、VLDL受容体などのApoE受容体の関与を示唆する所見が報告されている。まず、最近相次いで発見された脳に比較的特異的に発現するApoE受容体のうち、ApoE受容体2,LR11,LR5と呼ばれる受容体について特異抗体を用いて脳組織における分布・局在、老人斑や神経原線維変化との関連について免疫組織学的検討を行った。あわせて、脂肪酸の代謝に深く関与している脂肪酸結合蛋白に対する抗体を用いて同様の検討を行った。その結果、抗ApoE受容体2抗体を用いた検討では神経細胞、老人斑変性突起が、抗LR11,抗LR5抗体を用いた検討では神経細胞が陽性に染色された。また、抗脂肪酸結合蛋白抗体を用いた検討では、皮膚型脂肪酸結合蛋白に対する抗体を用いた検討で神経細胞の他に神経原線維変化が陽性に染色された。これらのことから、ApoE受容体の多くは神経細胞に局在することが、また一部の抗ApoE受容体抗体ではアルツハイマー病の異常構造物が陽性に染色されることが明らかとなった。ApoE受容体は神経細胞の脂質代謝で重要な役割をはたしているのみならず。何らかの形で老人斑形成に関与している可能性が考えられた。また、抗皮膚型脂肪酸結合蛋白抗体により神経原線維変化が陽性に染色されたことから、複数の脂質代謝の経路がアルツハイマー病の脳病態形成に関与している可能性も考えられた。
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