研究概要 |
神経細胞の生存・分化に必須な神経栄養因子の一つであるNGFの機能的受容体のTrk機能が細胞膜ラフトに局在するGM1により直接制御されていることを見出しその分子機構をあきらかにすることを目的に本研究を実施した.平成11年度にその作成に成功したGM1結合部位を欠くdeletion mutantをTrkの発現しないPC12亜クローンにtransfectしstabletransfectantの作成に成功した.この細胞系では,リガンド非依存性にTrkが自己燐酸化されておりNGF刺激による自己燐酸化反応は観察されなかった.また,血清非存在下でPC12細胞はアポトーシスを起こすが,NGFの存在でこのアポトーシスは通常阻害されるが,変異型Trkを発現する細胞ではこの阻害がかからず細胞死が惹起された.さらに,同細胞系に発現するTrkはその大半が細胞内にとどまっており本来の存在場所であるラフトにはごく少数のTrkしか存在しなかった.さらに,ラフトの主要構成脂質であるコレステロールをキレートするbeta-methyl-cyclodextrin,filipinでPC12細胞を前処理しておくと,同細胞はNGFに反応できなくなることを見出した.さらに,こうした前処理で,神経毒のMPP+に対しより感受性が増大した.これらの事実は,神経細胞を死から防御する上で本質的役割りを果たすTrk受容体機能は細胞膜上のラフトという特殊な構造物の存在が必須であること,また,その機能発現にラフト内の主要ガングリオシドであるGM1の存在が欠かせないことを明らかにした.向後,もう一つの主要な構成脂質であるスフィンゴミエリンについても同様な検討を行うと同時にラフト構造物の合成制御の分子メカニズムも明らかにしたい.
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