研究概要 |
1.ランダムドットキネマトグラムと仮現運動刺激を用いて,それらの視覚性運動刺激に共通して反応するヒトの脳部位を詳細に検討した.12名の被験者を対象に,上記2つの刺激によって誘発された脳磁場活動を記録した.反応は,全ての被験者で単一双極子モデルで説明できる単純な磁場変化を示した.そして推定された活動部位をそれぞれの被験者の3次元MRIによる脳表画像に重ね合わせて,解剖学的な部位を同定した.その結果,次のことが明らかになった.どの被験者も活動部位は,第一次視覚野以外の側頭部にあり,その部位は運動刺激の種類によらず一定であった.脳表解剖学的にみると,その部位は被験者により差があり,3つのタイプに分けられた.ひとつは,側頭-後頭部にあるタイプ(12名中7名),後頭部にあるタイプ(2名),頭頂部にあるタイプ(3名)であった.いずれもPETやfMRIによる他施設の検討では,運動視に関わる部位として報告されているが,これらがどのような機能に対応しているかは今後の検討課題である. 2.仮現運動刺激を用いて,視野の部位による特性の違いを検討した.刺激は,左視野で固視点から1度の部位を中心に,水平線上から45度ずつ上視野,下視野に運動方位を傾けたときの反応の差を検討した.反応は,水平方向でもっとも振幅が高く,次第に上下に傾くと低下した,しかし,上視野の下向きの運動では,振幅は水平方向と変わらず高い値を維持した.この結果は,視覚野の部位特性が運動視にもあることを示している. 3.仮現運動の知覚がどの脳部位で行われるか検討した.仮現運動の滑らかな知覚は,ふたつの光の点滅のタイミングによって決定される.これをシステム的に変化させたときのヒトの知覚と脳磁場反応を比較検討した.脳磁場反応は,みなヒトのMT/V5と呼ばれる部位に起源を持つと考えられた.この反応の振幅は,心理物理実験で測定されたヒトの知覚とよく相関していた.よって,ヒトMT/V5の神経活動が我々の運動視の知覚を担っている可能性がある.
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