研究概要 |
冠動脈近位部に設定した狭窄にもとずく慢性虚血心のラットモデルにおいて、心不全発症の病態を心機能,冠循環,心筋ミトコンドリア呼吸器能の面から検討し、さらに冠eNOS機能改善を図る治療及び直接的心筋保護を図る目的でCaの動態に関与するイオンチャネルを標的とする薬物治療の可能性を評価した。平成11年度の本研究においては、慢性虚血によりmitochondrial KATPはすでに開口しており,新たに投与したmitochondrial KATP開口薬は心不全抑制効果を発揮しなかったため,本年度はsarcolemmal KATP開口薬であるニコランジルの慢性投与効果を評価したが、心機能と心室リモデリングに何ら影響を与えなかった。次に,Na-H交換系阻害薬であるSMP-300の連日経口投与効果につきさらに検討した。SMP-300群では冠狭窄の4週後には左室拡張末期径は対照薬群に比して有意に減少し,駆出率も改善した。SMP-300群ではミトコンドリアにおける酸素消費量が減少し,細胞保護に働いていると考えられた。また,SMP-300群では冠微小循環における内皮の一酸化窒素合成酵素活性は改善したが、冠狭窄で減少した冠予備能はSMP-300群で改善しておらず,SMP-300による心筋保護効果は直接的に冠循環の改善をかいしたものでないと思われた。冠eNOS機能改善薬としてはeNOSの補酵素であるtetrahydrobioputerine(BH4),NOの基質であるL-arginin,及び両者の併用による抗心不全効果を検討したが,L-arginineの効果は有意でなく,一方,BH4は心不全を有意に改善した。ただし,両者の併用による相加的効果は認められなかった。これらの結果をまとめると,慢性虚血心のモデルにおいては,急性虚血の病態に有効とされるmitochondrial KATP開口薬及びsarcolemmal KATP開口薬は必ずしも有効ではないが,対照的にNa-H交換系阻害薬はミトコンドリア及び心筋保護効果を発揮し,有効な治療薬となり得ると考えられた。また,冠eNOSの補酵素も慢性虚血性心不全の治療に有効と考えられた。
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