研究概要 |
ラットを用いてAdriamycin心筋症モデルの作製を試み,ヒトAdriamycin心筋症とほぼ組織学的に一致するモデルを再現性をもって作製することができた.このモデルの心機能を心エコーを用いて経時的観察するとAdriamycin投与後8週以降より心機能の低下がみられ,組織学的変化と一致し,さらに同時に行った分子学的解析においても,心筋細胞のapoptosisの出現及び増加やFas抗原の過剰発現,心筋細胞膜上のFas-ligandの出現がみられた.これらの変化はAdriamycin投与後8週以降,9週,10週と経時的に増悪が見られた.Apoptotic cellの増加と共に心機能の低下がみられた.さらに心機能の悪化する前にanti-Fas ligand antibodyを投与し,Fasを中和化を試みたところ心筋細胞のapoptosisが減少し,心機能の低下も押さえることができた.このことよりAdriamycinによる心筋のApoptosisにFas-Fas ligandの経路が関与していることが証明され,臨床的にもAdriamycin心筋症の予防の可能性が出てきた. さらに,Anthracycline系薬剤の新しい誘導体であるPirarubicinの慢性心毒性の程度を知る目的でAdriamycinにかえてPirarubicinを同様のプロトコールにて注射した.さらにanti-Fas ligand antibodyの抑制作用とも比較した.方法は前回同様まず組織学的変化を比較し,さらに心筋のapoptotic cellの出現頻度,Fas antigenの発現,心機能の推移についても比較検討した.Pirarubicin投与群ではAdriamycin群に比し有意にapoptotic cellの数が少なく,Fas antigenの過剰発現もみられなかった.また,心機能の低下もみられず,以上よりpirarubicinはAdriamycinより明らかに慢性心毒性は少なく,apoptotic indexより判断すると約1/4と考えられる.また,anti-Fas ligand antibodyによりFas/Fas interactionはblockでき,Adriamycin単独群にくらべapoptotic indexは少なかったがPirarubicin群に比べると大きく,その効果には限界があると思われた.
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