研究概要 |
現在までの精神分裂病の遺伝学的研究により,分裂病の病因には異種性が存在すると考えられる。その異種性を考慮しながら,病因を解明する必要がある。近年分裂病の陰性症状とセロトニン受容体遮断作用との関係が注目されている。我々は一等級親族に遺伝負因のある分裂病患者群(L(+)群)40名と健常対照群40名における5HTR2A遺伝子のexon1におけるポジション102のMspI制限酵素によるDNA多型(T102C多型と呼ぶ)について検討した。T102C多型には,C1,C2の多型が存在するが,L(+)群,健常対照群において各遺伝子頻度の有意差は認めなかった。従って,遺伝負因のある精神分裂病と5HTR2A遺伝子T102C多型との相関は認めなかった。 分裂病の病因としては環境要因も重要である。そこで若年発症精神分裂病患者群(35名)と成人期発症の分裂病患者群(35名)において,(1)患者母親の妊娠・分娩時の異常の有無(2)遺伝負因の有無(3)成人するまでの明らかな家庭内のストレスの有無(4)学校教育での明らかなストレスの有無について両群において調査し,若年発症精神分裂病の発症要因について成人発症群と対比し、検討した。その結果(1)若年発症群において母親の妊娠・分娩時の異常及び出生時の児の異常を5%レベルで有意に多く認めた。(2)遺伝負因の有無については若年発症群において明らかに多く認めたが,両群において統計学的有意差は認めなかった。(3)成人するまでの明らかなストレス(発症前の両親の離婚,明らかな不仲,不在,重症身体疾患)に関しては若年発症群に5%レベルで有意に多く認めた。(4)高校教育までの明らかなストレス(進学校,不登校,いじめなど)は若年発症群に有意(Pc<0.001)に多く認めた。またこれらの要因を全く持たない患者は成人発症群に有意に多く,3項目併せ持つ患者が若年発症群に有意に多く認めた。 分裂病の疾患家系において表現促進現象が時に認められることにより,3塩基反復配列慎重の関与が推定されている。そこで我々はhSKCa3(human small condactance calsium-activated potassium channel)遺伝子多型と分裂病との関連を調べる為にCAG repeat多型をPCRにて増幅する系を作成した。今後L(+)群,L(-)群においてCAG repeat数について検索を行う予定である。当初のレセプター遺伝子多型性と抗精神病薬反応性の相関については,前向きに対象を集めることに大幅な遅れをとっている。今後は精力的に対象患者を集め,研究を進める予定である。
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