研究概要 |
水溶性シナプス前タンパクであるNACP(α-synuclein)は、細胞内で不溶性となり"NACP線維"(Arima et al. Brain Res,1998)を形成し、Parkinson病,Lewy小体型痴呆,および多系統萎縮症を引き起こされることが知られているが,われわれの研究により以下のことも明らかになった. (1)Parkinson病・Lewy小体型痴呆のdystrophic neuritesは、Lewy小体に比べるとNACP線維の量は少ないが、軸索輸送障害など機能障害を引き起こすには十分であると推測される。Parkinson病の神経機能障害の形態学的基盤を評価する上で、重視すべき所見である。 (2)Parkinson病・Lewy小体型痴呆ではNACPの一次的蓄積に伴い,二次的にタウの蓄積が起こり,同一細胞内にNFTが形成されうる.両タンパクが同一細胞内に光顕レベルで共存しても,別の線維を形成することが示された.一方,タウの一次蓄積症ではNACP線維形成はなかった.以上からNACPがタウとは直接結合しないことが示唆された.我々の別の研究により,NACPがtubulinと結合することにより線維形成が加速されることが明らかにされた(Alim MA, J Biol Chem:2002).従って,細胞内でNACPが過剰になり微小管系の動的平衡を破綻させ,二次的にタウが蓄積し,タウのリン酸化を引き起こすという仮説が導かれる,これは今後の研究により解明されるべきである. (3)多系統萎縮症に出現するNACP陽性のアメーバ様星状膠細胞は星状膠細胞の細胞死過程と考えられる.多系統萎縮症では星状膠細胞の機能異常が疑われるため,今後は神経栄養因子分泌や修復反応の変化について検討する必要がある. (4)多系統萎縮症では,神経細胞と膠細胞の核内のNACP線維形成が転写障害を引き起こし,細胞死の原因となっている可能性がある.
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