研究概要 |
MDM2によるp53蛋白の分解を抑制するARF遺伝子とG1/S移行を促進する細胞周期制御因子CDK4を抑制するINK4A遺伝子は同一のINK4A/ARF遺伝子座から発現する.両者の発現を137例のヒト造血器腫瘍患者検体で解析したところ,これまでの報告と同様INK4A/ARF遺伝子座の欠失に相当する両者の発現欠損は比較的増殖の早い腫瘍で認められ,予後と関連していた.しかし,INK4AではなくARF遺伝子の発現に臨床的意義が見出された.その高発現が濾胞性リンパ腫で,また発現欠損がび慢性大細胞型リンパ腫で予後不良と関連した.また,多発性骨髄腫患者よりサイクリンD1過剰発現にp53変異を伴う細胞株を樹立した.いずれも,造血器腫瘍でのp53経路の異常が重要であることを示している.そこで,p53変異が腫瘍細胞で獲得される機序を解明するため,p53遺伝子変異の続発するC-MYCと活性型H-RAS遺伝子共導入細胞を用いて実験を行った.ラット胎児線維芽細胞にC-MYCと活性型H-RAS遺伝子を導入し,形質転換した細胞をクローン化し,r選択とK選択によってもたらされる変化を解析した.r選択では,細胞密度の低い培養条件で細胞を継代し,K選択では,細胞密度の高い培養条件で細胞を継代した.増殖率(r)で淘汰されるr選択では,期待通り徐々にrは高まり,p53点突然変異株ではもう一方の野生型アレルの消失が次々に現れた.つまり,p53変異は増殖を早め,r選択下で有利に選択される.一方,K選択ではp53変異(野生型アレルの消失)は必ずしも促進されず,r選択では見られない多倍体の台頭が観察された.今回は,INK4a/ARF遺伝子座については言及できなかったが,造血器腫瘍を含めヒト腫瘍におけるp53経路の異常はr選択によってもたらされることが示唆された.
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