研究概要 |
再生不良性貧血(再不貧)は造血幹細胞に対する免疫学的な攻撃によって発症すると考えられているが,免疫反応の標的となる自己抗原はまったく分かっていない.われわれは,免疫学的機序の関与が濃厚な再不貧患者の骨髄から,病態に密接に関与するCD4陽性T細胞クローンZN1を単離した.そこで,平成11年度はcombinatorialなランダムペプチドライブラリーを用いてZN1の標的ペプチドの同定を試みた.その結果,ZN1の増殖を促すいくつかのペプチドが同定されたが,血液細胞に関連の深い分子の同定には至らなかった.現在,新たに開発されたCLIP置換型ペプチドライブラリーを用いてZN1の標的ペプチドを検討中である.一方,このプロジェクトに関連して,再不貧患者の骨髄から単離した別の細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocytes,CTL)クローンNT4.2を用いて,自己B細胞に対する細胞障害活性のメカニズムを検討した.その結果,細胞傷害活性が起こるためには,CD58やCD59などのglycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白を標的細胞が発現している必要があることが示された.再不貧の発症に造血幹細胞に対するCTLが関与しているとすれば,このようなGPIアンカー膜蛋白を欠失しているparoxysmal nocturnal hemoglobinureia(PNH)形質の幹細胞はCTLの攻撃を免れて生き残る可能性がある.そこで,100人の再不貧患者末梢血について,CD55・CD59を欠失している顆粒球の有無を高感度のフローサイトメトリーを用いて検討したところ,発症後間もない再不貧患者の88.6%にこのようなPNH顆粒球の増加が認められた.このPNH顆粒球の割合は,免疫抑制療法後の血液学的回復にともなってほとんどの例で著明に減少した.したがって,造血幹細胞に対するCTLは多くの再不貧患者で造血不全の発症に関与していると考えられた.
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