研究概要 |
我々は、幹細胞因子(Stem Cell Factor:SCF)受容体であるKITレセプターチロシンキナーゼに恒常的活性化突然変異が存在することを見い出した。これらの活性化変異はKIT遺伝子の膜直下領域(KITG559)およびキナーゼ領域(KITV814)に存在し、正常型KITとは生物作用が異なり腫瘍原性を持っている。 KITの恒常的活性化変異は、現在までに血液疾患の骨髄異形成症候群,マスト細胞腫瘍また消化器系のカハール細胞由来消化管ストローマ腫瘍などで報告されている.そこで,他のKIT陽性の造血器腫瘍であるsinonasal natural killer/T-cellリンパ腫について,本国および中国の症例の病理標本よりDNAを抽出し,SSCP法を用いて変異の有無を検索した.全国23例中12例にKITのexon 11あるいはexon 17に点突然変異が検出され,特にexon 17ではコドン825のValがAlaに置換する変異が高率に認められた.このVal825Ala変異KITレセプターのリガンド非依存性活性化能について検討したが,in vitroでは恒常的活性化能はほとんど認められなかった.しかし,恒常的活性化以外にも,基質特異性の変化などにより増殖優位性を獲得する可能性があり,さらに検討中である.また昨年度の研究から,活性化変異型KITによる腫瘍化シグナルは特にras-MAPK系に強く依存するなど,正常型とは異なることが示された.そこで本年度は,活性化変異KITを分子標的に選択的阻害作用を持つ薬剤を検索した.一群の合成チロシンキナーゼ阻害剤であるtyrophostinについて,野生型および変異型KIT導入細胞におけるKITの活性,増殖阻害能,アポトーシス誘導能等に与える影響について検討したところ,tyrophostin AG1296は野生型やkinase領域変異に比べ膜直下領域活性化変異をより低濃度で阻害し,より有効にアポトーシスを誘導することが確認された.
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