研究概要 |
複雑な染色体異常を持つヒト白血病や悪性リンパ腫135症例をFISH法で解析し、染色体の一領域が複数の他の染色体の端部に転座する現象をみつけ、これをsegmental jumping translocation(SJT)となずけた。SJTは新しい遺伝子増幅機構である。これまでみつけた8領域(8q24,9q34,11q13,11q22-2314q32-34,chr.21;21q22,22q11)に加え、今回SKY-FISH法をもちいて観察し、これ以外の7領域をみつけた(1q22-32.2,2q22-25,3q24-27,5q22-32,7q23-q25,16q22-q23,20q21-22)。また30症例にては8q24,11q13,11q22-23,21q22のSJTの4領域の共通部域をFISH法を用いて同定した。どの領域も染色体バンド数個分を含むかなり広い範囲が共通領域であった。領域内に存在して遺伝子発現の高い遺伝子がSJTにて遺伝子量を増加し、悪性化に重要な働きをしていると考えられる。8q24では発現の高い遺伝子が疾患の種類でことなり、MYC遺伝子とこれ以外の遺伝子が、11q13ではcyclinD1遺伝子が全例で発現が高く,21q22ではAML1遺伝子よりテロメア側の遺伝子が重要な遺伝子と考えられた。8q24と11q13にSJTを持つ骨髄性白血病細胞株OHN-GMをもちいて約20本の染色体分裂像内のSJT領域をmicrodissection法を用いて切断、DNA抽出し、DOP-PCR法で増幅してプローブを作成した。FISH法を用いて骨髄細胞の間期核上で検出した。このプローブを用い2例の患者を経時的に観察し、陽性細胞の増加が観察され、診断、予後推定に使用できた。また染色体の切断したDNA断片に標識をおこない、細胞株より作成したcDNAライブラリーをスクリーニングすることで5,8個の陽性クローンを得た。現在これらの遺伝子を解析中である。単離された遺伝子は将来悪性化の遺伝子診断に使える。SJTは化学療法や放射線被曝後の白血病に多く観察され、SJTと環境因子との関連が示唆される。SJTの形成の機構は不明である。またSJTはヒト染色体が進化学的に形成されたときの1単位であり、癌細胞では1単位を基本に他の複数の染色体にとび回るのではないかと考えている。
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