研究概要 |
PNHは造血幹細胞の後天性変異に起因するクローン性疾患で、溶血、易感染、血栓症、造血不全、白血病化など複雑な病態を呈する。このような病態発生に必須の「変異クローン発生およびその選択的拡大」機序は、溶血機序が解明された今日でも依然謎でありその解明が待たれる。PNHでは変異クローンの誘発基盤として遺伝子不安定性が想定されており、これを実証する目的で、その指標であるマイクロサテライト(MS)不安定性、染色体異常、Hypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase(HPRT)遺伝子変異率について検討した。 1,マイクロサテライト(MS)不安定性:20症例で11種類のMS遺伝子を用いMS不安定性を検討した。その結果、PNHではMS不安定性は稀であることが明らかとなった。(Eur J Haematol,64:430-32,2000)。 2,染色体異常の解析:13症例の骨髄又は末梢血白血球に対し、分染法およびFISHでモノソミー7(-7)およびトリソミー8(+8)の出現頻度を検討した。その結果、-7を5例(38%)に検出したのに対し+8は検出し得なかった。これはPNHにおける7番染色体の不安定性と、新たな変異クローン出現のマーカーとしての-7の有用性を示唆している(論文作成中)。 3,HPRT遺伝子の突然変異解析:12症例および17健常人由来のT細胞および骨髄細胞を用いたコロニー形成能を利用し、6-チオグアニン耐性のHPRT遺伝子変異コロニーの出現頻度を比較検討した。その結果、健常人3例(18%)に対しPNHでは8例(67%)と高頻度に耐性コロニーが検出され、しかも耐性コロニーの出現頻度は10^6細胞当たり健常人で平均1.3に対しPNHでは平均84と著しく増加していた(論文作成中)。 以上より、PNHではMS不安定性は稀であるが、7番染色体の不安定性やHPRT遺伝子変異の好発が認められたことから変異クローン出現の誘発基盤として遺伝子不安定性が示された。
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