研究概要 |
急性前骨髄球性白血病(APL)は,疾患特異的な染色体転座t(15;17)により,PML/RARαキメラ遺伝子を生ずること,およびall-trans retinoic acid(ATRA)による分化誘導療法が有効なことで特徴的な白血病である.RARαはATRAのレセプターそのものであるため,PML/RARα蛋白はATRAのターゲットになっていると考えられているが,分化誘導の詳細な分子機構は明らかになっていない.ATRAは初回治療には高い有効率を示すが,長期投与すると耐性が出現することが大きな問題であり,ATRA耐性の克服が今後の臨床応用のためには重要な課題となっている. 本研究室で樹立されたAPL細胞株UF-1は,臨床的にATRA耐性となった再発APL患者から得られたものであり,ATRA耐性の研究にはきわめて有用である(Kizaki,et al,Blood,88:1824,1996).UF-1においてPML/RARα遺伝子の構造変異を検索したところ,同キメラ遺伝子のRARαのATRA結合ドメインにアミノ酸の置換をもたらす点突然変異[Arg^<611>(CGG)→Trp^<611>(TGG)]を見出した.COS細胞へのtransfection assayにより,この変異遺伝子のATRA結合能を検討したところ,野生型に比べ著しい低下が認められた.保存されていた患者検体のPML/RARα遺伝子を検討したところ,全く同一の突然変異が検出された. 以上の結果から,臨床的なATRA耐性は,PML/RARα遺伝子においてATRAとの結合能を低下させる点突然変異が重要な役割を果たしていることが明かとなった.今後,点突然変異とATRA耐性の関連を更に詳しく検討していく予定である.
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