蛋白分解酵素(特にcatepsin L)の腎炎進行への関与を、実験腎炎モデルと培養分化糸球体上皮細胞を用いて検討した。 実験ネフローゼモデルであるラットpuromycin aminonucleoside腎症は、上皮細胞障害を基に糸球体係締の癒着・硬化病変を生じる。同モデルでの免疫組織化学的検討で、catepsin Lが上皮細胞に特異的に発現し、特に慢性期では癒着・硬化病変付近の上皮細胞のみにcatepsin Lが発現する事を見いだした。阻害物質の検討では、cystatinβはすべての上皮細胞にほとんど発現を認めず、cystatin Cはcatepsin Lが発現している上皮細胞でのみ発現が低下していた。以上より癒着・硬化病変の発症・進展に関与する上皮細胞障害に、catepsin Lによる過剰な蛋白分解が関与している可能性が示唆された。 次に培養分化糸球体上皮細胞を用いて、糸球体障害に関連するbFGF、PDGF、TGFβの刺激による、蛋白分解酵素と阻害因子の細胞外分泌への影響を検討した。増殖因子刺激後の培養液のwestern blottingで、bFGFはcathepsin Lの、TGFβはmetalloproteinaseの細胞外への分泌を明らかに増加したが、PDGFは影響を示さなかった。一方これら2つの蛋白分解酵素の阻害物質の分泌は増加しなかった。 以上の結果から糸球体上皮細胞は増殖因子の刺激により、抑制因子を伴わずに蛋白分解酵素の分泌を増加する事が示された。従って病的条件下では、糸球体上皮細胞から分泌された蛋白分解酵素は抑制因子によってコントロールされず、糸球体上皮細胞の障害や基底膜の分解を来し、結果として糸球体上皮細胞の剥離や基底膜の透過性を亢進させ、さらに糸球体係締の癒着や硬化病変を生ずる可能性が示唆された。
|