研究概要 |
ヒト甲状腺腫瘍の原因として幾つかの癌遺伝子の異常が報告されているがその詳細はなお不明である。細胞増殖にいたる情報伝達経路としてはras, raf-1,MEK, MAP Kinase(MAPK)が連続的に活性化されるMAPKカスケードとphopahatidyl-inositol 3kinase(P13K)を介する系が重要である。培養ブタ甲状腺細胞でもIGF-1やEGFなどの成長因子の刺激によりMAPKカスケードやP13K活性が刺激され、これらの経路の阻害剤により細胞増殖は抑制された。今回は甲状腺乳頭癌(PC),濾胞癌(FC),濾胞腺腫(FA)と正常組織の間でMAPKカスケードとP13Kの下流に位置するAkt, p70S6kinase(P70S6K)の発現量と活性に差があるか否かを検討した。PC, FCではMAPK, MEKの発現量およびその活性が正常組織に比して有意に高いことが判明した。免疫組織学的にもMAPK, MEK発現量は正常組織やFA組織に比較して数培に増加していた。p70S6Kの発現量は腫瘍部と正常部で差がなかったが、癌組織ではリン酸化された活性化p70S6Kの発現が有意に高かった。リン酸化されたAktの発現量はPC患者の約70%で正常部より増加していた。これに平行してAktの基質であるBadのリン酸化も腫瘍で増加していた。以上の成績から、ヒト甲状腺癌の半数以上でMAPKカスケードやP13Kを介する経路が構成的に活性化されており、これが癌細胞の増殖や細胞死の抑制に関与することが示唆された。この事実は甲状腺癌の鑑別診断や治療法の開発に役立つ可能性がある。
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