研究概要 |
血清paraoxonase(PON1)は血中では高比重リポ蛋白(HDL)上に存在し,低比重リポ蛋白(LDL)の酸化を抑制することにより動脈硬化の進展を防御している.このPON1が酸化ストレスによる糖尿病性血管障害の発症機序に関係していることと,その機序について検討した.PON1の3種類の酵素活性は健常者に比して全て糖尿病患者で低下しており,本疾患ではPON1の機能障害が存在することが明らかとなった.さらにPON1のELISAを開発し,血中濃度を測定した結果,糖尿病患者においてはPON1酵素活性が低下しているにもかかわらず蛋白濃度の低下はみられなかった.糖尿病における酸化ストレスがPON1に遺伝子レベルで作用する可能性をみるため,本遺伝子プロモーター領域を解析したところ新たな遺伝子多型を見いだした.本遺伝子多型はPON1転写活性に影響し,血中濃度に反映されることが示された.さらに,PON1プロモーター領域の解析により,PON1転写活性はIL-1で抑制,IL-6で促進された.また,酸化LDL刺激によりPON1転写活性は抑制された後,亢進した.さらに,PON1プロモーター領域のGCboxがPON1転写に必要で,転写因子Sp1が重要な働きをしていることが示された. 糖尿病における酸化ストレスは本疾患の血管障害進展に影響すると考えられるが,それを抑制する可能性のあるPON1の機能が糖尿病では障害され,また,酸化ストレスが遺伝子レベルでPON1発現に影響していることが示唆された.
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