研究概要 |
脂肪親和性陽イオンdelocalized lipophilic cation (DLC)は,腫瘍細胞ミトコンドリアに選択的に集積して抗腫瘍性を発現する抗癌剤である.MKT-077は高い水溶性、安定性,腫瘍細胞に対する選択的毒性などの条件から選択されたDLCであり、ミトコンドリア障害を介して腫瘍細胞死に至たらしめるとされている.培養ヒト癌株,新鮮手術材料,ヌードマウス可移植性ヒト癌株を用いて,MKT-077の選択的な殺細胞効果を検討した. 【方法】In vitroの検討では,ヒト培養腫瘍細胞8株,新鮮手術材料51検体(胃癌27例,大腸癌10例,肝細胞癌14例),合併切除された脾臓10検体を対象とし,MKT-077の抗腫瘍性をMTTアッセイにより判定した.In vivoの検討では,ヌードマウス可移植性ヒト胃癌株(St-4),大腸癌3株(Co-4,HT29,LS174T)膵癌株(CRL1420)を皮下に移植し,本剤の腹腔内投与または浸透圧マイクロポンプを用いた7日間持続皮下投与による抗腫瘍効果を比較検討した. 【結果と考察】In vitroにおけるMK-077の抗腫瘍効果は,濃度×時間に依存しており,培養ヒト癌細胞72時間接触における50%抑制濃度は1.7〜14.3μg/mlに分布していた.同一症例から採取された胃癌細胞および脾細胞を用いた検討では,MKT-077は腫瘍細胞に対して濃度×時間依存的な抗腫瘍効果を示した一方,脾細胞に対する細胞障害性は認められず,本剤の腫瘍細胞選択的毒性が示された.In vivoの同一総投与量では,浸透圧マイクロポンプによる持続皮下投与法の方が腹腔内分割投与法よりも有効であった.この持続投与法においてMKT-077は5株中3株に対して有効であった.本剤はミトコンドリアに対する選択的蓄積/抗腫瘍効果という新たな作用機序を有する化合物であり,今後の臨床応用が期待される.
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