研究概要 |
前年度に引き続いてエンドセリン系を構成する分子群と大腸癌との関連について検討を行った.消化管ホルモン受容体と同様な7回膜貫通型構造をもつエンドセリン受容体に関しては,エンドセリンAレセプタ-(ET_A-R)のみならずエンドセリンBレセプタ-(ET_B-R)についても測定系が確立された.またエンドセリン-1(ET-1),エンドセリン変換酵素(ECE)についても測定系が確立された.当科で切除された大腸癌79症例について,腫瘍組織79検体および同一症例の正常大腸粘膜79検体を対象とした.total RNAを抽出しrandom primerによってcDNAを合成し,リアルタイム定量的PCRを行いET-1, ET_A-R, ET_B-R, ECE mRNAを定量した.腫瘍中のET-1発現量を正常組織のそれぞれの発現量で除したものをET-1 ratioとした.ET_A-R, ET_B-R, ECE ratioについても,ET-1 ratioと同様に算出した.これら分子群のmRNA発現と臨床病理学的因子との関連性を検討した.大腸癌組織のET-1, ET_A-R, ET_B-R, ECE ratioは,年齢,性別,占拠部位,腫瘍径,組織型,深達度,リンパ節転移との間には関連性を認めなかった.追跡期間28ヶ月(中央値)で同時性・異時性含めた血行性転移を有する転移群20例では,ET_A-R ratioが5.5±1.3(mean±SE)で,非転移群59例の2.6±0.3に比べて有意に高かった.ET-1, ET_B-R, ECE ratioについては,転移群,非転移群で差を認めなかった.ET_A-R ratioが5以上の症例では,5未満の症例に比べて有意に血行性転移例が多かった.大腸癌の血行性転移には,エンドセリン系のET-1, ET_B-R, ECE mRNAの関与は乏しく,ET_A-R mRNAの発現のみが関与していることが示唆された.
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