研究概要 |
遺伝子発現の連鎖解析法(serial analysis of gene expression,SAGE)を用いてヒト胃癌における遺伝子発現異常を包括的に解明することを目的として,本研究を計画した.培養細胞系で開発されたSAGEを胃癌組織における遺伝子発現解析に応用するためには高純度mRNAの抽出・精製手技の修得と間質成分の混在を最小限にとどめた解析系の確立が不可欠である.平成11年度は臨床検体の解析に先立って,当施設で樹立したヒト胃未分化癌細胞株KKLSについて,SAGE法により遺伝子発現解析を行った.その結果,この癌細胞株から5182個のtagが得られ,2969種類の遺伝子を定量的に同定した.またリンカーの比率が1.02%と効率的であることも確認した.発現頻度が上位の遺伝子群にはミトコンドリア遺伝子や,Gene Bankに登録されていない未知遺伝子の発現も認められた.組織学的に未分化なKKLSの遺伝子発現パターンは,種々の組織型や分化度を示すヒト胃癌の遺伝子発現を解析するための重要な基礎データになることが確認された.平成12年度は,胃癌臨床検体に対しSAGE法による遺伝子発現解析を進めてきたが,その過程で臨床検体より高純度かつ変性の少ないmRNAの調整が大きな問題となった.胃癌の検体採取時に消化酵素等の各種酵素や胃腸内細菌の混入が避けられない.また,胃切除の過程ですでに組織や細胞の壊死は進行し,切除後の肉眼病理学的業務のため組織凍結まで最低1時間は必要である.このような状況で,臨床検体に対してSAGE法のような大規模シークエンスにより発癌,浸潤・転移に関連する遺伝子群を同定するためには,高純度mRNAの調整が必要不可欠であることが解った.一方,ヒト胃未分化癌細胞株KKLSと同様に,発現頻度が上位の遺伝子群にはミトコンドリア遺伝子が多数含まれることを明らかにした.最近,ヒト癌においてミトコンドリアDNAの発現異常や突然変異が高頻度に認められることが報告されているので,胃癌の発生・進展過程におけるこれらの遺伝子発現異常の関与が強く示唆された.現在,種々の工夫により臨床胃癌検体からSAGE法に適した高純度mRNAを抽出・精製し,ミトコンドリア遺伝子を含めて胃癌の発癌と浸潤・転移に関連する遺伝子群の同定に向けて鋭意,解析を継続している.
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