研究概要 |
本研究では,重症急性膵炎における免疫担当細胞の数的・質的変化とその分子機構を解明する事を目的とし,臨床例や実験モデルの免疫担当細胞を解析した. 臨床例の解析として,重症急性膵炎症例の末梢リンパ球,特にCD8陽性細胞が有意に減少していることを確認し,質的にはリンパ球幼弱化反応とNK細胞活性の低下が認められた.さらに,後期感染合併患者でこの減少が有意に顕著である事を見出すとともに,血清IgG値の低下とLAK活性の低下が明らかとなった.実験的には,ラット重症急性膵炎モデルにおいて,リンパ系組織の動態と免疫反応を解析したところ,膵炎誘導後6時間でアポトーシスによる胸腺萎縮,末梢リンパ球(特にCD8陽性細胞)減少とそのアポトーシスが観察された.12時間後には脾臓の萎縮と脾細胞の減少が認められたがアポトーシスは観察されなかった.さらに24時間後の脾臓から脾細胞を分離培養し,T細胞刺激下の細胞増殖能およびサイトカイン産生能を検討すると,膵炎ラットの脾細胞では増殖能は有意に低下し,サイトカイン産生能はTh1系およびTh2系両者とも有意に抑制されていた. 無菌的に発症する急性膵炎から感染が成立し重篤化する機構は未だ明らかにされていないが,発症早期の末梢リンパ球減少と重症度の関連が報告されており,重症急性膵炎では末梢リンパ球減少を介して生体防御機構が障害されていることが示唆されてきた.本助成に基づいた我々のこの研究によって,重症急性膵炎時に免疫担当細胞に広範にアポトーシスが誘導されるとともに,その機能にも著しい質的変化が観察された.さらに,これらの現象が発症後期の感染惹起と密接に関連することも明らかとなった.重症急性膵炎の病態を全身の免疫担当細胞障害による感染防御能低下として捉えることの根拠となる結果が得られ,本疾患における感染防御対策を講ずる上での重要な知見となった.
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