研究概要 |
本研究は,加齢に伴う神経障害に起因する肛門括約筋機能低下や,恥骨直腸筋の異常収縮などの骨盤底筋群運動異常に対して,局所の解剖学的な構造を破壊することなく,比較的容易に行える低侵襲治療の方法を確立し,その治療装置を開発する目的で行った.神経障害に起因する機能不全に対しては,神経原性肛門括約筋機能不全犬モデルを作成して電気刺激の有用性と意義を確認し,具体的な電気刺激の方法論を確立して臨床応用の可能性を検討した.骨盤底筋群異常収縮に対しては,精製ボツリヌス菌毒を用いた局所治療の可能性を検討した.対象となる骨盤底筋群運動異常の病態診断法として,他覚的評価ができる動態撮影が有用と考え,排便機能造影装置を試作して,その有用性を確認すると同時に,コンピューターによる自動解析装置開発の可能性を検討した. 陰部神経挫滅後の肛門管静止圧は術前と比較して2週間後56.8%,4週間で68.2%,6週後69.6%,8週後には70.2%と統計上有意な低下(P<0.005)が確認できた.この実験モデルを用いて術後6週と8週の神経障害モデル犬に陰部神経中枢側の電気刺激を行って肛門管内圧の変化を確認後,ネオスチグミン投与による排泄の状態を排便機能造影で観察した.肛門管静止圧は,刺激前に比較して1.4倍まで上昇した.これは陰部神経障害前の肛門管静止圧絶対値の90%以上に相当する値であり,排便機能造影で生理機能的にも失禁の改善が確認できた.骨盤底筋群過剰収縮モデルに対する精製ボツリヌス菌毒による治療実験では,期待した結果が得られなかった.可変式放射線遮蔽装置を試作して直腸,骨盤底筋群の動態をコンピューターで定量認識できるようになった. 今後は臨床応用に向けて,直腸,骨盤底筋群の動態を自動解析評価して対象となる病態を選別し,体表より神経刺激できる装置の開発に研究を発展させたい.
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