研究概要 |
虚血性心疾患に対する細胞増殖因子を用いた冠血管新生療法の開発を目的として,急性心筋梗塞モデルを用いて,塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を心筋内に投与し,局所心筋血流量,心機能,梗塞後左室形態,血管新生,心筋細胞アポトーシスに及ぼす影響を検討した. 成犬で左冠状動脈前下行枝を結紮し急性心筋梗塞モデルを作成し,bFGF100μgを心筋梗塞および梗塞境界領域の心筋内に分散注入した.対照群では生理食塩水を心筋内に注入した.冠状動脈結紮前,直後,1週、2週,4週後に左心耳からカラーマイクロスフェアーを注入し,4週後に心臓を摘出した.左室心筋層を輪状に切除し,梗塞領域,梗塞境界領域および正常領域に分け,局所心筋血流量を測定した.冠状動脈結紮前,3日,1週,2週,4週後に超音波法で心機能を計測した.摘出心で左室壁菲薄化率を計測し,梗塞後左室再構築を定量化した.血管内皮細胞をvon Willebrand因子の免疫組織化学染色を用い同定し,毛細血管と細動脈レベルで血管新生像を評価した.梗塞境界領域心筋のTunnel染色とp53染色を行いアポトーシスを検討した.対照群では2週まで血流は回復しなかったが,bFGF群では3日から血流が回復し始めた.対照群では2週まで心機能は回復しなかったが,bFGF群では1週で回復し始めた.梗塞境界領域ではbFGF群で毛細血管数ならびに細動脈数が多かった.bFGF群で心筋アポトーシスが少ない傾向を示した. 心筋梗塞モデルにおいて,心筋内に投与したbFGFは左室再構築過程で壁菲薄化を抑制し,心機能の回復を促進した.その要因としてbFGFによる血管新生に基づく局所心筋血流量の増加と心筋アポトーシスの抑制が考えられた.bFGFを用いた血管新生療法は虚血性心疾患に対する新しい治療法として臨床応用が期待される.
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