研究概要 |
血管新生抑制因子の解析 血管新生抑制作用を有するとされるThrombospondin(TSP-1)の腫瘍間質における蛋白発現と腫瘍内微小血管(Microvessel Count:MVC)との関連を非小細胞肺癌230例に対し免疫組織化学的に解析し、臨床的意義を検討した。 TSP-1発現減弱は154例(67.0%)に認められ、減弱群に進行例が有意に多く認められた。非減弱群に対し、減弱群では有意に予後不良であった。MVCの低値群、高値群の2群間で、高値群が有意に予後不良であった。TSP-1の発現の程度とMVC値に有意な相関は認められなかった。 MVC高値群に関してTSP-1の発現別に予後を検討すると、TSP-1非減弱群で有意に予後良好であった。 非小細胞肺癌の腫瘍間質におけるTSP-1の発現低下は予後不良因子であった。TSP-1発現とMVCとの関係および悪性度との関連については、TSP-1の発現減弱によって血管新生を促進し悪性度を増す系と、血管新生に関わらずTSP-1の発現によって悪性度を抑制する系が存在することが示唆された。 多重遺伝子変異解析による悪性度診断 現在の病理組織学的診断によるTNM分類に加えて、遺伝子変異や発現異常などの生物学的特性に基づいた予後因子を解析し、臨床的に補助療法を必要とする患者の層別化を試みた。肺腺癌の切除症例を対象とし、がん遺伝子(K-ras)、がん抑制遺伝子および細胞周期調節遺伝子(p53,p27,p16),細胞接着因子(E-cadherin,β-catenin)、血管新生因子(TSP-1,MVC)についてDNA変異あるいは蛋白発現異常の有無を解析した。単変量解析による有意な予後不良因子は、p53変異,p27,E-cadherin,β-catenin,TSP-1の発現異常であった。各症例でこれらの因子の異常数を算定し多重変異として予後を解析すると、異常数の増大とともに有意に予後不良であった。すなわち、分子生物学的特性を考慮することで、肺腺癌における悪性度の危険因子がより明確になり、集学的治療、補助療法を必要とする患者の層別化が可能になると考えられる。
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