研究概要 |
p21は癌抑制遺伝子p53の下流に存在する細胞分裂抑制性の蛋白質であり、サイクリン依存性キナーゼ(CdK)に対する阻害活性を有する。その発現はp53により調節されると考えられているが、ある種の細胞においてはp21は細胞が老化または分化に向かうときにも誘導され、しかもその際のp21の誘導はp53に依存しないという報告が最近なされた。例えば、筋肉細胞の場合筋肉細胞に特異的な転写因子(MyoD,Myf5)がp21を誘導する。一方1,25(OH)2D3(Vitamin D3,Vit.D3),Menatetrenone(Vitamin K2,Vit.K2)は各種細胞の分化誘導因子として知られており、整形外科領域でも骨肉腫の分化誘導や骨粗鬆症の治療への応用に関する基礎研究が盛んに行われている。しかし、その作用機序や情報伝達に関する詳しい報告は現在までのところあまりない。我々はVit.D3,K2による骨肉腫細胞の分化誘導作用におけるp21の関与を調べる目的で今回の研究を行った。 1.細胞増殖に関してVit.D3は0〜100nMの間で、またVit.K2は0〜0.5mMの間でdose dependentに抑制を示した。 2.Vit.D3,K2の刺激によりp21の発現が認められたが、p53の発現は認められなかった。3.ALP活性はVit.D3,K2の刺激により軽度の増加がみられた。一方、Osteocalcinの産生はVit.D3刺激により産生の増加が認められたが、Vit.K2単独の刺激では影響を受けなかった。4.細胞周期の解析ではS期の減少とG0/G1期の増加が認められた。 今回の研究により、Vit.D3,K2による骨肉腫細胞の分化誘導作用において、p53を介さない経路でp21の発現が関与していることが明らかとなった。Vit.D3,K2刺激で細胞増殖が抑制されているにもかかわらずp53の発現が見られないこと、刺激により腫瘍細胞の分化が誘導されていることは、p21が骨肉腫細胞(MG-63)の増殖抑制作用よりもむしろ分化誘導作用に関与していることを示唆している。
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