研究概要 |
吸入麻酔薬の脳血流量増加(脳血管拡張)作用は,マクロ血流測定法においてはよく知られるところである.しかし,その微小循環系への影響,特に単一微小血管への作用については不明の部分が多い.本研究では,代表的吸入麻酔薬であるハロセンによる微小循環レベルにおける血管拡張作用(ネコ脳軟膜細動静脈)について,生体蛍光ビデオ顕微鏡法を用い、いくつかの側面,特にレオロジー的因子より分析した. 結果として,主に次の3つの知見を得た. (1)ハロセン吸入による体血圧低下時の微小血管拡張により,単一微小血管において血流が保たれる(autoregulatory vasodilatation)ものと,そうでない(dysautoregulation)ものとがある.これまでの"ハロセンにより脳自動調節能は障害される"というマクロ血流測定法における知見は,部分的には微小循環レベルでの血管反応による結果といえる. (2)ハロセン吸入中の微小血管拡張の機序は,主として血圧低下に対する筋原性のものとハロセンそのものによる直接作用が考えられたが,吸入終了後の体血圧上昇時にも血管拡張が起こり,この拡張には,レオロジー的因子である管壁ずり速度を介した血流依存性機序が部分的に関与することが示された. (3)一方,cell-free layerは血管壁内側(内膜)面に形成されるため,生体におけるその動的変化は血流依存の血管拡張に影響を与える可能性があると考えられた.このレオロジー的因子であるcell-free layerに関しては,ハロセン吸入時よりむしろ吸入終了後の血管拡張に対して,管壁ずり速度と共に関係している可能性がある. 以上より,血流依存のレオロジー因子による微小血管拡張機序が,ハロセンによる脳(微小)血管自動調節能の障害(dysautoregulation)に関与している可能性が示された.
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