研究概要 |
脳低温法は,少なくとも動物実験においては,虚血ニューロンの保護には最も効果的であることが確実である。虚血後に開始する脳低温法のニューロン保護効果は,虚血侵襲の程度,低温の開始時期,持続時間,低温の程度の4因子で決定されると考えられるが,短時間の低温や軽微な低温では当然ニューロン保護作用が弱くなる。スナネズミの一過性前脳虚血モデルでは,短時間の低温処置ではニューロン死を遅らせる効果があり,軽微な低温処置では約50%のニューロンが生存する。一方,脳保護薬として登場した多くの薬剤が虚血後からの投与ではニューロン保護作用が弱く臨床応用に至っていない。しかし,一過性のニューロン保護効果しか認められない短時間の脳低温処置とミクログリアの増殖抑制作用のあるプロペントフィリン(PPF)の併用投与により,虚血30日後の海馬CA1残存ニューロン数の割合は60%と,短時間脳低温処置・PPF併用投与群で有意なニューロン保護効果が認められた。さらに,緑茶の成分であるテアニンのニューロン保護作用を検証すると,虚血前からの投与であるが,脳室内投与,経口投与で有意な脳保護効果が得られた。短時間の低温や軽微な低温とテアニンを虚血後経口にて併用投与すると,虚血30日後の海馬CA1残存ニューロン数の割合はそれぞれ67%,72%と有意なニューロン保護効果が認められた。 脳低温療法が脳虚血性疾患の一般的治療法として定着していない理由の一つに脳低温療法が高度の呼吸循環器系の集中治療を要することが挙げられる。特殊な集中管理設備を持たない一般医療施設でも35℃前後の軽微な低体温と脳保護薬を併用することにより,少ないリスクで最大限の治療効果が期待されうる。
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